act.1「二人の初任務」

守人新しい子ができました男性キャラシリーズ作品
現場は古い雑居ビルだった。
外壁の塗装は剥げ、夜風に錆びた看板がかすかに揺れている。

勇士は足を止め、建物を見上げた。

「……優斗」

背後で、短く返事が返る。

「はい」

それだけで十分だった。
声が揺れていない。呼吸も乱れていない。

勇士は一歩前に出る。

「俺が先に入る。お前は三歩後ろ。視界は右」

「了解です」

優斗は迷わない。
その即答に、勇士は胸の奥がわずかに軋むのを感じた。

——信じている声だ。
階段を上がる音は、やけに大きく響いた。
二階。人の気配。微かな足音。

勇士は拳を握り、手で合図を出す。

止まれ。

優斗はぴたりと止まる。

勇士は一瞬だけ、ためらった。

このまま自分が前に出るべきか。
二人で行くべきか。

——考えるな。

思考を切り捨て、勇士は前に踏み出した。

ドアが開く。
中にいた男が振り向くより早く、勇士は間合いに入る。

短い攻防。
床に倒れる音。

静寂。

勇士はすぐに振り返る。

「……無事か」

「はい。問題ありません」

優斗は少し息を詰めながらも、笑っていた。

「先輩、判断早いっすね」

その言葉に、勇士は返事をしなかった。
代わりに、視線を逸らし、次の部屋を確認する。

作戦は成功だった。
被害も、怪我もない。

建物を出たあと、夜気が二人を包んだ。

優斗が、ぽつりと言う。

「……初任務、緊張しました」

「そうか」

「でも」

優斗は少しだけ照れたように続ける。

「先輩が前にいたから、大丈夫だと思えました」

勇士は歩みを止めない。
ただ、ほんの一瞬だけ拳を強く握る。

——その言葉を、知っている。

かつて、同じ声で。
同じ距離で。

勇士は前を向いたまま言った。

「次も同じだ。俺が前に出る」

優斗は、少し驚いた顔をしてから、頷いた。

「はい。ついていきます」

勇士は何も言わない。
ただ、歩幅を一定に保った。

迷わない。
二度と。

それが、この初任務で
勇士が自分に課した、唯一の誓いだった。
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